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D&Iを推進して25年。P&Gが模索し導き出した方針と、社内浸透のための3つの柱とは【Forbes JAPAN BrandVoice掲載記事】

Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2019「従業員規模1,000名以上の部」において第1位に輝いた、P&Gジャパン 広報渉外本部 執行役員シニア ディレクター 住友聡子氏にLiB社員がお話をうかがいました。

P&Gジャパン 広報渉外本部 執行役員シニア ディレクター 住友聡子氏
PROFILE
P&Gジャパン 広報渉外本部 執行役員シニア ディレクター 住友聡子氏

■ 前回のサーベイで特に高かった評価スコア
□ 管理職の女性割合:エントリー企業全社のうち、1位
□ 役員の女性割合:エントリー企業全社のうち、1位

■ 取り組みのポイント
□ 多様な個人の能力を最大化させること。これが全ての取り組みの目的
□ 「女性」から「個性」へ。段階を経て進化してきた25年の歩み
□ 「特定の人」ではなく「すべての人」の能力を最大化する
□「インクルージョン」はトレーニングが可能なビジネススキル

すべての目的は、個人の能力を最大化させること

ー25年以上にわたって、女性活躍推進、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に取り組んでいらっしゃるP&G様。改めて、その目的や位置づけを教えてください。

どうしても日本ではジェンダーギャップの問題が大きいことから、「女性活躍推進」という切り口が目立って見えますが、私たちの活動の目的は、「女性も男性も関係なく、あらゆる個人の活躍を最大化する」ということ。一人ひとり違う人間が、自分らしく活躍できる環境づくりを目指しています。

一人ひとりの違いを受け入れ、それを活かすことで初めて、ビジネスのイノベーションは生まれます。そういった価値観は、社内活動だけではなく、「パンテーン」などのブランドを活かした社外発信(※)を通して、社会全体の理解を呼びかけております。

※パンテーン「#PrideHair」は、髪を通して、自分を自分らしく表現できる就職活動のあり方について考えるキャンペーン。(2020年)
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/pride-hair

「女性」から「個性」へ。段階を経て進化してきた25年の歩み

ー「女性」というのはあくまで、多様性の中のひとつという捉え方なんですね。ダイバーシティ&インクルージョン推進活動の長い歴史の中で、どのような分岐点がありましたか?

 図参照:https://jp.pg.com/newsroom/2020diversity-and-inclusion/

歴史をさかのぼると、1992年に「ウーマンズネットワーク」が発足したのが始まりです。「ウーマンズネットワーク」は、当時はまだ少なかった女性社員同士の情報交換が目的で、仕事の相談をしたり、家庭との両立について話し合ったりする場です。女性の不安を解消し、いきいきと働いてもらうための取り組みで、当時は非常に効果的だったと思います。ここが、いわゆる「女性活躍推進」のステージでした。

しかしそれが定着してくると、どうもうまくいかなくなってきます。同じ女性でも、一人ひとり全く異なりますから、「女性」とひとまとめではうまくいかないし、女性社員たちも「女性だから」と言われたくない、と。そして「女性」だけに支援を寄せると、男性のほうからも疑問の声が上がるんですよね。そこで次の「ダイバーシティ推進」のステージに移りました。それが、1998年頃のことです。一つ目の大きな変化でした。

個人の多様性を尊重する「ダイバーシティ」のステージを経てしばらくすると、今度は多様な人が「いる」だけじゃだめだよね、ということに気づきます。その多様性こそ、うまく活かさないと意味がないのです。そこからやっと、「ダイバーシティ&インクルージョン」のステージに入りました。違いを意識的に認め合って活かしていく。そのスキルを全員が身につける。それこそが組織のイノベーションには必要不可欠だ、と捉えて取り組み続けてきた結果、今に至ります。

新たなステージとして目指しているのは、組織にあるダイバーシティを基盤とした「平等な機会とインクルーシブな世界の実現」です。

特定の人だけではなく、全員に機会があるべき

ー「女性」からスタートし、「一人ひとりの個性」が対象に移行していったのですね。今、日本では「女性の働きやすさ」を整えているステージの企業様も多いなかで、非常に参考になる道のりですね。

実際もう「女性の働きやすさ」だけでは成り立たないんですよね。それだけをやっていると、「女性」の枠の中で話が終わってしまうんです。

制度にしても、特定の人だけではなく、必要な人が必要な時に取得できることが大事なんです。もともと働く上での障壁を取り除くための制度であるはずなのに、「女性のための制度です」と言われると、すごく使いづらいものになってしまうんです。

例えば在宅勤務も、子育て中の社員向けの制度にしてしまうと、制度を利用する人も「自分だけ特別?」という、何だか申し訳ない気持ちになりますよね。そういう「申し訳なさ」とかって、全然生産的じゃないんです。

でも、例えば男性の上司が、「家が遠いから在宅勤務を使ってみたら、すごく無駄なく仕事が進んだよ」みたいなケースがたくさんあれば、色々な人が利用しやすくなりますよね。また、たとえ同じ人でも、介護が始まったり、遠方へ転居することがあったり、ライフステージの変化は起こります。ですから、制度はいつでも誰でも必要な人が利用できて初めて、結果が最大化すると考えています。

ー御社は女性の管理職比率の高さも特徴的ですが、登用においても同じような方針でしょうか?

もちろんです。「女性の管理職比率」という指標の数字だけを見て、「女性だから」という理由で登用するのは絶対にあってはならないことです。周囲からの納得も得られないし、何よりその人自身の自信に繋がらないからです。

大前提、昇進や登用については、純粋にその人の「能力」で考慮されるべきもの。「このポジションにいちばん最適なのはこの人です」という、それだけのことであるべきです。その上で、ライフステージの変化の影響を受けやすいのは女性であるという事実に着目し、そこに対して適切にサポートするようにしています。

社内浸透のための3つのポイント

ーすべての人にチャンスがあるように、制度も登用も設計されているんですね。御社ではどのようにして、ダイバーシティ&インクルージョンの考えを社内に浸透させているのでしょうか?

社内浸透のポイントは3つあります。

 図参照:https://jp.pg.com/newsroom/2020diversity-and-inclusion/

一つ目は、「文化」。「違い」を尊重し、活用し合う組織風土の醸成です。「違い」というのは本来、ちょっと面倒くさいものです。同じ人が集まっているほうが楽なんですよね。でもそれだと、長期的なイノベーションは生まれない。さまざまな「違い」を持った人が意見を戦わせて初めて、イノベーションが生まれるんです。正直、とても手間のかかる作業ですが、あきらめずにやっていくというコミットメントが大事です。

そのためには、TOPが根気強く発信し続けること、そして社員がそれを理解して本当に意味のあることだと感じていること、その両方が重要です。

二つ目は、「制度」。個人の力ではどうしようもない障壁を取り除くことを目的として、すべての人を対象とした、汎用性が高くフレキシブルな制度を設計することがポイントです。

そして三つ目は、「スキル」です。これが一番重要だと思っています。インクルージョン、つまり「受け入れて活かす」ということは、スキルなんです。

「相手に寄り添う」「受け入れる」というと、なんだかまるで徳の高い人にしかできないことのように感じますよね。でも、「ビジネスに必要なスキル」だと言われるとどうでしょうか?自分も学ぶべきものだ、という気がしませんか?

P&Gでは、この「スキル」を重要視して、多様性をビジネスに活かすスキルのトレーニングプログラムを自社開発したり、社内でも階層別に「インクルージョン・スキル」の研修を実施したりしています。

インクルージョンは誰かにしてもらうだけではなくて、自分も相手にすることであるべき。
そのためには、お互い受け入れ合えるように適切に発信する、というのも大事なスキルです。発信して、受け入れて…という作業は本当に手間のかかることですが、意識してとにかくコミットすることが大事です。

ー御社の場合は特に、様々な国籍の方がいらっしゃるので、コミュニケーションをとる上でも必要不可欠なスキルと言えそうですね。

そうなんです。文化も価値観も違う、さまざまなバックボーンを持つメンバーが集まっていると、一人一人の違いを意識したコミュニケーションがカギになってきます。

例えば、へりくだるような言い方は、謙虚さという日本人の美徳の表れかもしれませんが、人によっては自信のないリーダーに見えてしまうことがあります。その感覚は、本当に人によって異なります。何か違和感があったときに、「自分はどう思うか」「どんな言葉に、どんなことを感じたか」を発信して、それに対する一人ひとりの考え方に向き合う。根気がいりますが、これがインクルージョンのスキルです。

つまりインクルージョンは、仲良しになるために寄り添うのではなく、「企業成長」という共通の目的のためのスキルであると捉えるのが良いと思います。

2021年、さらなる進化を目指して

ーなるほど。どこか他人事のように感じていた人も、「スキル」だと捉えると、当事者意識を持ちやすそうですね。ダイバーシティ&インクルージョンのステージに入ってから約15年経ちましたが、社内ではどのような変化がありましたか?

2013年には女性管理職比率30%を達成し、役員相当級も20%を超えた今、次のステージを目指す時が来ていると感じます。

さらに進めていくためには、一人ひとりの違いを尊重して活用するということを、もっとわかりやすく伝えていく必要があると思っています。どうしても女性活躍推進が注目されるのですが、そのせいかまだ「ダイバーシティ&インクルージョンって、結局ジェンダーの問題でしょ?」と考えている人がいるのも事実です。

ですから、何らかの事情でどうしても自分らしくいられていない人…例えばLGBTQ+の社員、障がいのある社員なども含めたダイバーシティに、会社としてもっと向き合っていきたいと思い、去年ぐらいから取り組みを始めています。

海外から“ Congrats!”の声も

ー最後に、Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2019の受賞後の効果などをお聞かせください。

社外でこういったアワードを通して客観的な評価をいただけると、社内でも「認めてもらったから、もっと頑張ろう」という空気になるんです。Forbes JAPAN WOMEN AWARDでは第一位という光栄な評価をいただけて、とても勇気づけられる結果になりました。

また、受賞が決まった際に、海外オフィスから「日本、やるね!」という声をいただきました。やっぱりまだまだジェンダーギャップのある国というイメージなので、頑張ったねと言われて誇らしかったですよ!

ーグローバル企業ならではの反応ですね!Forbes JAPAN WOMEN AWARDは「女性活躍のものさし」となるようなアワードを目指しているので、私共もとても励みになります。貴重なお話をありがとうございました!


インタビューを終えて
一人ひとりの違いに面倒くさがらずに向き合う、そして違いを活かすということが、「ビジネスに必要なスキル」だと言い切ることは、すべての社員に「自分ごと」として捉えてもらうために非常に効果的なアプローチですね。ダイバーシティ&インクルージョン先進企業の、段階的な試行錯誤と、強いコミットメントに支えられた努力の道のりを知り、これからもリーディングカンパニーとしての発信に期待が高まるばかりです。


経済面におけるジェンダーギャップ解消に寄与するアワードへ

本アワードは、人数比率や育休比率、福利厚生などの「働きやすさ」を基準にした選出ではなく、女性リーダー、プロフェッショナルを続々と輩出している企業と、自ら道を切り拓き自分らしく働く女性を讃えるアワードとして、2016年に発足しました。今回は、女性向けの施策についてだけでなく、企業のジェンダー平等への取り組み、女性に対するエンパワーメント、男性の意識と理解等について調査を実施。社内の女性活躍推進のために大きなアクションを起こした人物やチーム、女性登用を進めることで成長を加速させた事例に着目して、企業のポジティブな努力を見える化し、経済面におけるジェンダーギャップ解消に寄与するアワードを目指します。
→Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2019 前回までの情報はこちら

Promoted by LiB / interview&photograph by 岡田麻未(LiB) / text by 高嶋朝子(LiB)

 

 

(この記事は、 2021/06/25 にForbes JAPAN BrandVoice Studioに掲載されたものです)

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